私のご主人様Ⅲ
「若、準備できた」
部屋を訪れた信洋さんの声に季龍さんはゆっくりと体を離す。
酸素不足か、少し頭がぼおっとする。ぼんやりと季龍さんを見上げると、軽々と抱き上げられた。
「梨々香は」
「起きてるよ。大丈夫。お嬢は分かってる」
「…」
少しだけ言葉を交わした2人は、それっきり黙って裏口の方へ向かい始める。
裏口から外に出ると、まだ夏の名残を持った夜の空気が体を包む。
塀の外には静かに黒のハイエースが止まっていて、既に源之助さんと梨々香ちゃん、平沢さんが乗り込んでいた。
「お兄ちゃん、ことねぇこっちに寝かせてあげて」
座席の後ろのスペースに敷き詰められたように布団が敷かれていた。
梨々香ちゃんが座っているこの前に寝かされると、季龍さんの手は離れていく。
「ことねぇ、大丈夫だよ。私も、お父さんもいるから」
「…」
泣きそうなのを我慢して、私を励まそうとしてくれている梨々香ちゃんに心が痛む。
本当なら、私が励まさなきゃいけないのに。
布団をかけてくれた梨々香ちゃんは、私の右手を掴んで頬笑む。