チョコレート・ウォーズ
先制攻撃が有効です
翌日、莉子が登校し教室に入ると、陸斗はすでに席に着いていて、幸弘と笑いあっていた。

その姿をジッと見ていると、視線に気づいたのか陸斗が莉子の方を振り向いた。

「おはよう、莉子」

「お、おはよう」

少し緊張して、声が裏返ってしまった莉子とは反対に、陸斗はいつもと変わらない。

「おはよう、莉子ちゃん」

陸斗の隣にいた幸弘が軽く片手をあげてきて、莉子も挨拶を返す。

「莉子」

「は、はいっ!」

「……そんな緊張すんな。意識され過ぎるとこっちも気まずくなるから」

「う、うん」

陸斗はいつもそうだ。何も言わなくても、先回りして莉子の気持ちを察してくれる。

そんな陸斗の側にいることが心地よくて、それが当たり前のことだと思っていた。

ぎこちない笑顔を陸斗へ向けて自分の席へと向かうと、苦笑いの杏奈が出迎えてくれた。

「おはよう、莉子。大丈夫?」

「大丈夫って?」

「昨日までの陸斗くんへの接し方と、今日の接し方が違いすぎる。そりゃ、陸斗くんも戸惑っちゃうわよ」

「やっぱりわかっちゃう?」

「うん」

自分でもわかっていた。ひとりの男性として『好き』と自覚をしてしまったら、陸斗のことを思えば胸がキュンと締め付けられたり、ドキドキしたりしてしまう。

目が合えば、更にドキドキが増してしまい、今までのように話せなくなっていた。

「変に意識しちゃうからいけないのよ」

「わかってるんだけどね。でも、りっくんのこと思ったらドキドキしちゃうの」

そう言って莉子が頬を赤くして俯くと、杏奈が両手を挙げた。

「恋する莉子がこんなに可愛いとか、もうお手上げじゃない」

「お願い杏ちゃん、からかわないで」

更に顔を赤くする莉子を見て、クスクス杏奈が笑っていると、廊下から陸斗を呼ぶ声が聞こえてきた。

反射的に振り向いたふたりの視線の先には、女の子の二人組。

呼ばれた陸斗がそこへ向かって歩いていくのが見える。

「また呼び出しかあ。陸斗くん、相変わらずモテるよね」

独り言のようにつぶやいた杏奈の言葉に、莉子が首を傾げる。

「杏ちゃん。りっくんってモテるの?」

「……入学してから今まで、結構な頻度で呼び出されるの見てるけど。莉子だって一緒に見てるじゃない。あれ、何だと思ってたの?」

「何か用事があるんだろうなとは思ってたけど」

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