見えないなら繋いで・大学生編
「お邪魔します…」
「どうぞ。狭いけど」

どきどきしながら部屋に入る。靴を脱ぐとすぐにキッチンがあり、左手にドアが二つ並んでいた。
恐らく、お手洗いと浴室だろうと想像する。

キッチンを抜けると一段下がるよう段差になっていて、玄関に立ったときから見えていたそこには壁際にベッド、中央に四角いテーブル、ベッドと反対側にテレビが置かれていた。

真壁くんの部屋だ。
ここで真壁くんが生活していると思うとなんだかどきどきする。

「部屋、綺麗だね」
「普通だけど。そこ座ってて」

言われた通りに机の前に腰を下ろそうと見る。
ベッドの前にクッションが置かれているのは真壁くんの固定ポジションだと思い、その隣の面、逆L字の位置に座った。

「ごめん水しかない。あと、これ使って」

後ろから歩いてきた真壁くんは冷蔵庫からペットボトルの水を二つ持って机に置いた。
そのままガチャリとクローゼットを開けるとクッションを持って渡してくれる。

「ありがとう」

真壁くんは思った通りベッドの前のクッションの上に座り、ペットボトルの水に手を伸ばす。
二人だけの空間に急に緊張して私も「いただきます」と言ってペットボトルの蓋を開けた。

なんだろう、男の人の部屋に来るのはもちろん初めてだけど、真壁くんの部屋だと思うと嬉しいような、緊張するような、不思議な感じがする。

「神月さん」
「え、はいっ」

不意に声をかけられて思ったより大きい声が出てしまい恥ずかしくなった。

「あのさ、別に何もするつもりないからそんなに緊張しなくても」
「え…」

そう言われて初めて狭い部屋に男女二人きりでいること、真壁くんのセリフの意味を急に理解して一気に顔に熱が集まった。

「やっあの、えと、うん、分かってるよ!大丈夫っ!」

こんなに慌てる方が不自然なのに!
一度そこに気付いてしまうとさっきの非ではないくらい恥ずかしくなってくる。

手に持った水を口にして落ち着こうと深呼吸した時、さっきから何かを考えていたらしい真壁くんが口を開いた。

「…サークルの件だけど」
「え?」

そう前置きして真壁くんは私の方を向いた。
小さい机の角を挟んで座る距離は思ったより近い。
心臓の鼓動が早くなるのを聞きながら真壁くんの言葉の続きを待った。

「変なサークルとか気をつけて」
「へ?」

変なサークル?と私の頭の中の疑問符を読み取ったように、真壁くんは眉間に皺を寄せて難しい表情になった。

「だから、あるでしょ。名目とやってることが全然違うサークルとか」
「ええ、うーんでも、そんなの入らないと分からないんじゃ…」
「……っ」

真壁くんの言わんとしていることがいまいち読み取れず、思ったまま口にすると痺れを切らしたように真壁くんは私の右手を掴んだ。

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