今夜、愛してると囁いて。


「俺が持っていくんで、香澄さんはテーブル拭いてもらえますか?」


私が言葉を失っているうちにトレーはかっさらわれていき、伊月くんは軽々とした動作でキッチンの方まで運んでいってしまった。


「香澄さん香澄さん、大丈夫ですか?」


テーブルを拭くためのダスターを何枚か握りしめた幸ちゃんが固まったままの私を見て心配そうに顔を覗き込んでくる。


「……彼氏のいない枯れたおばさんにはキツいわ……」


伊月くんに他意はないと思いたい。

でも先ほどからの軽い態度でどうにも不信感を抱いてしまう。


「え?香澄さん彼氏いないんですか?」


私の小さなつぶやきを拾ったのはテーブル拭いて回る幸ちゃん――ではなくカウンターに戻ってきた伊月くんだった。


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