ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
彼は、かなり面食らったようだった。


彼の呆気にとられた顔で、自分の方が少し落ち着いた。


たしかに唐突だったかな……


「シン兄、ごめん!

まったくモモ姉……」


後を追ってきたイサキの方が、先にシンラに謝ってる。


なんか出遅れた感がしないでもないけど……今更、引き下がる気もないし。


「……親不孝者、ね……」


シンラが、先ほどの自分の言葉を繰り返した。


「お前。

羨ましいんだろ」


その物言いにカチンときた。


キッと彼を睨みつけると、彼も冷たい目をしていた。


……おそらく、自分がカチンとくるように言ったんだろう。


彼は、自分が何に腹をたてるかくらい熟知しているだろうから。


「誰だって。

言われたかないことがあんだよ」


その言い方が、あまりにも冷ややかだったから。


だから、自分の方から言ってやった。


「羨ましいわよ!

えぇたしかに、私は!

お父さんもお母さんも、覚えちゃいないんだから!」


シンラが顔をひきつらせた。


まさか、挑発にのってくるとは思わなかったようだ。


……話が脱線するけど……自分には両親の記憶がない、というか、小さい頃の記憶がない。


ある日気がついたら、盗人(ぬすっと)のオジサンに拾われていた。


しっかり覚えちゃいないけど、全身怪我だらけだったとか。


何か怖い目に遭って、防衛本能で記憶に封がなされたんだろう……自分を(一人前の盗人に)育ててくれたそのオジサンが言っていた。


そんな訳で、実は自分の年も生年月日も知らなかったりする。


そしてオジサンに先立たれ路頭に迷っていた際、偶然知り合ったシンラに戦師にならないか、とスカウトされた。


……嬉しい反面怖かった。


自分は、表に出てはいけない汚れた存在だ、と思っていたから。


だって、国を統治する城に元とはいえ盗人、だなんて。


ウェスター国の民にも示しがつかないだろう、と。


だけどシンラは、城の皆は、眉唾ものの存在の自分を受け入れてくれた。


だから自分は、城で精一杯やれることはなんでもやる、そういうつもりで生きてきた……シンラに城に連れてきてもらってから、こっち2年間。


今まで、彼の方から自分の過去に触れてくる発言は、一切なかっただけに……哀しかった。


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