初めて君を知った日。
✳︎Rain

静かな空間



「うっわ、雨降ってるよ」

閉まりきったカーテンをちらりと退けて、美友が怪訝そうに呟いた。
美友の流れる細い髪の端から覗いた窓の外はどんより重い。

「部活、できないね」

私が呟くように言えば、はぁぁと大きなため息。

「あり得んー。楽しみだったのになぁ」

私、高畑可奈と白石美友は高校1年の同級生であり、写真同好会に入部している親友でもある。
一口に自身を説明するなら、特徴やひいでた特技のないごく平凡な女子高生。

対象的に美友は、生まれつき髪色が茶に近く、細くてすらっとした美女だったり。

写真同好会は部活というより民間研究会のような集まりだけど、今日は屋外での活動が予定されていた。
植物や風景、自然をモチーフに活動するはずだったのにこの荒れ模様。

今日も屋内で自習かなぁ。


「あたし帰ろうかな、可奈どうする?」

「うーん、私も帰ろう。図書室に本返して帰るから、先に帰っていいよ」

「了解っ、じゃあまた明日ね」

「だね。気をつけて」


こんな会話をしている間に止まないかなと目を向けて見たけど、まだ意固地に降り続けている。
雨は人の感情を左右してしまう、厄介なお嬢様のよう。
……だとしたら晴れた空は、世渡り上手なのかもしれない。

なんて1人で妄想しながらカバンを背負い、まだ賑わっている教室を出た。

私の趣味は、写真を撮ることと本を読むこと。
どうしてかこの趣味を言うと大人しいイメージをつけられるけれど、好きというだけでお淑やかでも物静かでもない。
むしろ美友達とはよくはしゃぐ方で、特に写真同好会の部員達とは騒がしいほどにはしゃいでいる。

大人しいと言えば、冷たいだったり話しかけにくいだったり色んな印象をつけられてしまうから苦手だ。
図書室に足を運ぶと、より一層雨音が耳をついた。

返却ボックスに借りていた本を返し、その代わりに新しい本を借りようか考える。
その時、不意に本棚から目を離すと無人かと思った図書室に人がいると気がついた。

イスに座り、本を机に置いて楽な姿勢でそれを読み進めている1人の男子生徒。
髪は少し猫っ毛で、ふわりとしている。
誰だろう。上履きの色が私達と同じだから、きっと同級生なんだろう。

失礼かもしれないけど、誰だか分からない。
それに、肌がきれいであまり焼けていない彼はパッと見れば女子高生と区別がつかない。

じっと見つめていると目線が交わってビクッと震えた。
驚いたのはそれだけじゃなくて、彼が少し微笑んだことだった。
え、なに、どうして。


「読書、好き?」

思ったより男子らしい声質で柔らかい。
突然人に声をかけることに抵抗はないんだ。

「うん。好きだよ」

私も自然と、彼に応えていた。
なんだか画になる人だなと思った。
本と少年、なんていうテーマで写真を撮ったらすごく違和感がないだろうな。


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