初めて君を知った日。

すれ違う



「可奈ー? 元気ないね、どした」


笑顔を作っていたつもりが、美友にはばれていた。
せっかく今日は外で写真が撮れるというのに、気分は昨日よりも沈んでいる。

「なんでもないよ」

「なんでもなくないじゃん。あ、そういえば可奈が言ってた人いたよね? 誰だっけ、瀬尾?」

「瀬尾一輝君? がどうしたの」

「そうそれ、うちのクラスメイトなんだね」

「……は?」


なんの冗談かと思った。
確かに、まだ入学して2ヶ月ほどだし、全員を把握できないけど。

瀬尾君がクラスメイト?
ならどうして、彼はここにいないの?

「変な嘘やめてよ美友」

「嘘じゃないて。どこかで聞いた覚えがあるなぁって思ってたらその人、先生が入学式の時に言ってたよ。所属は1年B組だって」

「え、所属してるのに授業出てないってこと……?」

目を丸くしていたら、何も知らないんだと美友がため息をついた。


「詳しくは知らないけど瀬尾君、脳にちょっと障害を持ってるんだって。記憶障害。だから先生が個人授業をしてるみたい」

「……記憶、障害?」


心が崩れる音がした。
瀬尾君は、嘘つきなんてものじゃなかった。


「それでは今日は屋外で自然を観察していきますよー」

顧問の高島先生がボブの髪を揺らして軽快に部室を出て行く。


「可奈、行こ」

「……ごめん、ちょっと私行く所があるからそこに寄ってから行くね」

美友には申し訳ない気持ちもある。
だけど私は、何も知らずに瀬尾君を責めて傷つけてしまった。

それを謝らなきゃ……


部室を後にし、戻るねと彼が言っていた図書室のドアを開ける。
重いドアを開けたけれど、瀬尾君はいない。

肩で息をしながら図書室中を探した。
意外と広いんだ、ここ。

「いない……」

もう帰ってしまったみたいで。
はぁ、とため息をついて窓の外を見たら、微かな視界に机の上の本が映った。

ここの学校名が書かれた表紙に大きくプリントされた花びらの写真。
私が好きだと言った新道薫の花片。
瀬尾君も、好きだと言っていた。

目頭がグッと熱くなって霞む。

どのくらいなら、覚えていられるのかな。
明日は、私を覚えてくれているのかな。


自分の事を憎むなんて、バカかもしれないけど。
瀬尾君を知らずに、聞きもせずにひどい事をしてしまった。
それだけは謝りたかった。

明日、もう一度ここに来よう。
私はそう決心して、美友達のいる校庭に向かった。



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