甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
(11) レナルド・オルセン伯爵という男
 
 娼館にフィーネを送りとどけ、ユアンはそのまま ” 工房にいく” と
 木箱を持って行ってしまい、 ひとり家に帰り、服を着替え、髪を洗い
 鏡にうつる自分の姿を見つめながら、フィーネは、ほっと肩の力をぬいた。

 背の中程までのびた少しウエーブのあるブラウンの髪、もう金髪の
 ミルズ男爵夫人はどこにもいない。

 安堵するような、少しさみしいような複雑な気持ちを抱えながらも
 フィーネは難しいことをやり終えた後の高揚感を感じていた。

 法を犯すようなことをしたしまったという、後悔や罪悪感は薄れている。

 だが、それは、ユアンがなかなか帰ってこないことで、少しずつ不安に
 とってかわっていった。

 どうしたんだろう。

 まさか、ゴードン氏が箱が偽物だということに気づいた?

 中身がただの紙切れだとわかったら、ゴードン氏はどうするだろう。

 ホテルに乗りこむ? でも、もうそこにミルズ男爵夫妻はいない。

 工房へ行く? そしてそこで、契約書を持ったユアンと出会ったとしたら。

 だから、ユアンが帰ってこないのかも。

 嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。

 それに、さっきまで青空の見えていた空に、急に鈍い色の雲が広がり始め
 ごろごろと遠くに雷の音がすることが、さらにフィーネの不安を煽った。

 お願い、ユアン、早く帰ってきて......。





 ピカっと稲光が暗い空に走り、すぐにドォーンというような雷鳴があたりの
 空気を震わせた。

 横なぐりの雨が激しく窓ガラスにあたり、強い風がガタガタと窓をゆらす。

 遠くに聞こえていた雷は風や雨もひきつれて、今はもう、激しい嵐に
 なっていた。

 
 

 
< 142 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop