甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
 食堂が酒場になる夜は危険だから、夕食を食べ終えたらすぐ
 ユアンの家に戻ろうと、フィーネはエプロンを外すと、皿とともに
 おかれたスプーンをとりあげた。

 食べながらドゥーラを見送り、急いで食事を済ませ立ち上がろうとした
 とき、フィーネの肩に誰かが手を置いた。


   「一日、よく働いたみたいだねぇ」


 親しげに肩に手をおき、上機嫌な声をかけてきたのはバーバラだ。


   「あ、はい。今日はこれで帰らせてもらいます」


 フィーネがそういうと、バーバラは口紅がひかれた真っ赤な唇を、
 これ以上は無理だろうというくらい、歪めて笑った。


   「何言ってんだい、仕事はこれからじゃないか」
  
   「え?」

   「客をとる以外はなんでもやると言っただろ」


 そう言ってフィーネを覗き込んだバーバラはもう、笑っていなかった。


   「夜の稼ぎが金になるんだ。お金が欲しいなら、帰るなんて無理だよ」


 ネズミ捕りにかかったネズミを見るような目でフィーネを見て、痛いぐらい
 強い力でフィーネの肩を掴むバーバラの言葉を、フィーネはただ黙って
 聞いていた。
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