ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
新たな誓い
「……ひとつ、いいか」


ようやく熱さが喉元を通り過ぎたらしいケイゾウが聞いてきた。


「なんだよ」


「ん……ほら俺、母親いねえだろ。

だからよー……いまいちよく分かんなくて。

シンラはいいんかもしんねえけど。

お袋さん……たとえ、親父さんがひきあわせたっつってもさ。

義妹の父親は、全くのあかの他人じゃんか……お袋さんもだけど、シンラも。

そんな簡単に、割り切れるもんなのか?」


彼は、母親というものに若干理想を高く持ちすぎ、な気がしないでもないが。


まあ、彼が言うのももっともだろう。


「……大将が言ってらしたんだろ。

九回二死からの逆転ホームランって」


「九回二死ツースリーから、だ」


「あぁあもう、意外に細けえこと言うなぁ。

日記だよ、日記に。

書いてあった」


「……お袋さん。

ぬかりねえな~……」


「ぬかりってゆーか……気にならねえ訳ねえだろ。

俺も、母さんも……」


1冊めの、まだ初めの方の記述だった。


リンの父親について書かれていた。


今、手元に日記はないけど、大体覚えてたからケイゾウには口頭で伝えた。


日記本文は以下の通りだ。




*****


○月×日


シンラ、今日母さんは、ひとつの大きな選択をしました。


もしかして、と思い試しに検査薬をしたら陽性、病院に行ってみたら8週め……


ああ、あの時の……たった一度のことなのに、命が芽生えてしまった。


だってこの子は、ダイさんの子じゃない。


……でも、私の子。


そして、この子のことを考えるなら、いつまでも落ち込んでばかりもいられない、そう思った。


まずすべき事……この子の父親に全てを話し、今後どうしていくかを決めよう、と。


村を出てからずっとホテルに籠ってばかりいたけど、ようやく彼と面と向かって話そう、と決意しました。


……正直……また母親になれることが、嬉しかった。


シンラ、貴方やダイさんには本当に心苦しいけど……母さんは、新しい命と、新しい生活を始めようと思います。


貴方やダイさんには、心の中やこうして日記の中で謝ることしか出来ないけど。


でも、やっぱり私の本心は……もう一度、母親になりたいんです。


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