離婚、しませんか?
夫に宣言してみました
私の夫は綺羅綺羅しいイケメンだ。

ミディアムショートレイヤーの少し癖のある黒髪に縁取られたその顔には、流れるような弓型の眉、少し釣り気味の琥珀色に煌めく猫目にスッと通った鼻梁、そして優美な曲線を描く桜色の唇が絶妙のバランスで配置されている。
それはもう綺羅綺羅に妖艶なのである。
勿論、ツルツル毛穴レスな美肌の持ち主でもある。実に羨ましい。

背景に薔薇を背負っていても何ら違和感のないその艶美な容姿と、適度に引き締まったスリムな長身という見目の麗しさだけでも十分イケメンな上に、恵まれた自身に驕ることなく、優しくて周囲への気遣いができるその人柄も素敵な極上のイケメン王子なのである。

……たまに黒い笑みを湛えた王子に変身するけれど。

まあそれは置いといて。

半年前に挙げた結婚披露宴では花嫁である私よりも夫の方が遥かに美しくて、美しすぎて、老若男女問わず参列者の視線を独占していたことは、私の心の引き出しの一番奥の奥にそっと封印してきた切ないメモリー……だったけれど。

女としての何かをごっそり削られてしまったあの日の事も、今となっては良き人生経験であったと思える気がする。多分。

私の家族、親戚一同、友人達などからはお祝いの言葉と共に「こんな超優良物件はもう二度とないぞ。絶対逃すな、何が何でも逃すな」と何度も念を押されたのだがそれも無理からぬことだろう。
私自身、よもやこんなに麗しく性格も良く大手企業に勤めていて……などという出来すぎた男性とご縁が繋がり、あっという間に結婚することになるなんて思いもしなかったし、参列者の皆々様にとっても、凡人である私の身に起こったミラクルを目の当たりにするという衝撃の披露宴であったのだから。



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