シグナル
第六章『犯罪』

ジメジメとした梅雨の時期を過ぎ、

もうじき夏本番を迎えようとする、

ある日の出来事であった。


「武彦ちゃん、

どうしたの武彦ちゃん、

開けて、返事をして頂戴!」

武彦がこれほど長い間部屋から出なくなったのは初めてであった為、

美智代が心配になり、

武彦の部屋を尋ねたのだった。


すると途端にドアが開き、

部屋の中から武彦が出てきた。


その後部屋を出た武彦は、

「テリーは何処?」

と一言だけ言い残し、

どこかへ出掛けてしまった。


テリーとは誰なのか、

疑問に思った美智代であったが、

それよりも、

ここ数ヶ月の間ひきこもりぎみだった武彦が、

自らの意志で家を出る事などなかった為、

その事の方が嬉しくなってしまい、

行き先を聞くことも忘れ、

そのまま見送ってしまった。

 
この時武彦には、

仮想空間で味わった恐怖心が、

心の奥底に未だに残っていた。


厳密に言えば、

今いるこの世界が現実の世界なのか、

或いは仮想の作られた世界なのかもはっきりしていない。


そんな中、

すれ違う人々は全て敵に見えてしまう。


その為武彦の中で、

再び恐怖心が高まってしまい、

地元の小さな商店街を歩く武彦は、

偶然目にした小さな金物屋に入った。


この時武彦は、

ここを武器庫と思いこんでしまったのだ。
 
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