すれ違う未来
「三都(みと) わりぃ 待ったか?」
その時、兄がお店に入ってきた。
「せいちゃん」
私は一番上の兄、一也(かずや)を『お兄ちゃん』、
二番目の兄、清二(せいじ)を 清二お兄ちゃんを略して『せいちゃん』と呼んでいた。
でも、今 彼の前で兄を愛称で呼んでしまって後悔している。
子供っぽいと思われてるかも・・・。
いつも彼と話をする時はきちんと『お兄さん』『清二兄さん』と呼んでいたのに。
「あれ? 知り合い?」
兄が私に訊く。
「うん、渚の同僚の人」
渚は彼と私を引き合わせてくれた地元が一緒の友達。彼の同僚だ。
「へぇ、どうも」
と兄は彼に会釈した。
「どうも」
彼は無表情に挨拶する。
・・・彼は愛想の良い人だけど、元カノの兄になんて愛想良くしても仕方ないものね。
「なんか買う?」
兄が私に訊く。
「ううん、今日は何も」
「そっか、じゃあ、行こうか?」
「うん」
「じゃあ、失礼します」
兄が彼に声をかけ、出入り口へと向かった。
「はい・・・」
彼は兄に会釈し、私にポツリと、
「優しそうな人だね」
と言った。
「分かる? すごく甘やかされてるの、恥ずかしいんだけど・・・じゃあね」
彼が兄に会うのは初めて。
いつも私が彼の部屋へ行っていたから、私の部屋で兄と鉢合わせしたことはない。
だけど、帰省したときに撮った家族の写真をスマホで見せたことがある。
その時は、「似てないね?」と言っただけだったけれど。
< 20 / 101 >

この作品をシェア

pagetop