明治恋綴
綴は深くため息をついて、先ほど自分が座っていた席に戻る。ツネオミが座っていた席の傍で微動だにしない柊に視線を向けた。
薄く結ばれた唇以外は狐の面で隠されている顔。かろうじて見える瞳は何も映しておらず、感情が読み取れない。
「…あの男が勝手に置いていったのだから、お前の住む場所はないぞここは」
「必要ありません」
柊は短くそう答える。なんの抑揚のない、平坦な声質。まだ声変わり前の青年なのだろう。
「とりあえず、屋敷内を案内する。護衛するにあたって知っておいて損はないだろ」
綴は席を立ち、「こい」と柊を呼ぶ。柊は音も立てずに綴の背後につく。そのまま二人で部屋をでた。



屋敷の案内を終えて、綴は自室に戻った。柊はツネオミに伝えることがあると、外に出ていった。どのような連絡手段を有しているか知らないが、俺には関係ないことだ。綴は着ていたシャツを脱いで、部屋着に着替える。眠りにつこうとベットに腰かけた時、ふと柊の顔がよぎった。
屋敷の案内中、一切言葉を発さなかった。音もなく、ふとした瞬間に消えてしまいそうな雰囲気を持つ男。…あんな奴が、俺を守る?
綴はもう一度深くため息をついて、ベットに潜り込んだ。その夜はいつもよりも早く眠りに沈んだ。



『柊、屋敷はどう?広かったでしょ~?』
「そうですね。けれど私の護衛範囲内です」
『まあ君は強いから大丈夫だと思うけど、気をつけてね~』
「はい、綴様をお守りします」
『いや、綴くんも大事なんだけど~柊、君もちゃんと気をつけてね~』

『なんたって君、女の子なんだから』

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