国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「どうかしたのですか? 幽霊でもみたようなお顔をされていますよ?」

ジラルドはソファに座るユリウスの様子に首を傾げる。

「今、わたしは人魚を見たようだ」

「人魚……ですか? この美しい海域ならば人魚も居そうですが、あれは伝説にすぎませんよ」

「たしかに……まるで彼女は人魚のような美しさだったといったほうが相応しいな」
 
人魚伝説は男を美しい姿で惑わすと言われている。

「ユリウスさまがそこまでおっしゃるとは……わたしも見てみたものです」
 
たった今見たことだが、ふとユリウスは今のは幻だったのではないかと考える。
 
美しい夜に想像力が単に働いただけ。自分の理想の女性像を海に映したのではないだろうかと。
 
バレージからの報告は気落ちするものだった。

まだ潜って3日。

そうやすやすと沈んだ船が見つからないのはわかっているが、今度こそは……と、期待してしまっていた。
 
エレオノーラが生きていれば彼女と同じくらいの年齢かも知れないと、彼女の姿にエレオノーラが重なる。
 
ユリウスは薫り高い紅茶を一口飲むと、この海域の地図へと視線を移した。


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