国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「どこへ行くんだい?」

夕食後、小屋を出ようとするルチアに祖母が声をかける。

「まだ眠れないから、ちょっとだけ散歩に……」

「俺も行くよ」

ジョシュが付き合おうと立ち上がるが、ルチアは首を横に振る。

「ひとりで考えたいことがあるから」
 
そう言って小屋を出た。
 
板一枚だけの道は歩くたびにきしむ音がする。

(腐っている板もあるから、みんなは直すために潜っている)
 
ルチアが向かっている先は、小型の帆船だ。

(会えるかしら……もし会えたら、バレージのように怖い人じゃないといい……)
 
小型の帆船の前に立ったとき、昨日立っていた近衛兵は見当たらない。
 
そのとき、誰かが海に飛び込んだような大きな音がして、ルチアは帆船の先端の方へ走った。
 
海に目を凝らすと、誰かが溺れている。月明かりだけだが、見事なシルバーブロンドの髪のように見える。
 
ルチアは海に飛び込み、手足をバタつかせている人物に向かって水をかく。

すぐそこまでくると、溺れていたのは見たことがない美麗な青年だった。

ルチアはサファイアブルーの瞳と目が合った瞬間、落雷にあったような衝撃を受けた。

「うっ……」
 
彼が海へ沈んでいく。

ルチアは彼を追って海へ潜った。

彼の伸ばす手をルチアは掴むと、浮上しようと海面に向かって泳ぐ。
 
ふたりの頭が海上に出ると、ルチアは島に向かって泳ぎ、桟橋に彼の身体を押し上げる。

「大丈夫ですかっ!?」
 
彼を板の上に乗せたルチアは呼びかけた。そして自分も上がろうとしたとき、右足のふくらはぎが激しく攣った。


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