国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「おばさん、2杯ちょうだい!」

「おや、お前さんはなんて美人さんなんだろう!」
 
ルチアがお金を払おうとすると、ジョシュが先に店主の女性に渡す。

「おばさん、いつもより賑わっている気がするけど、祭りでもあるのか?」
 
いつもより人が多く、露店もたくさんだ。

「ああ、ユリウス国王がエレオノーラ姫とご婚約なさったんだ。各国から祝いにかけつけた要人たちなどもいるから、すごい賑わいなんだよ」
 
牛乳の紙のコップを持っていたルチアはユリウスの名前を聞いて驚いた。手から紙コップが滑り落ちる。

「おや、もったいない。いいよ、もう一杯あげよう」
 
優しい女主人は紙コップに牛乳を注いでいるが、ルチアはそれどころではない。

「おばさん、国王さまはユリウスって名前なの?」
 
ルチアは身を乗り出して女店主に聞く。

「ああ。素晴らしいお方さ。ユリウス国王は国一番と言われるほどの美形でね。貴族の娘たちはショックを受けているのさ。あたしら庶民は関係ないけどね」
 
ルチアの手は紙コップを受け取れないほど震えていた。

「ルチア、どうしたんだ? おばさん、ありがとう」
 
ルチアの代わりにジョシュが紙コップを受け取った。それから顔色が一気に悪くなったルチアを、人が少ない赤い小さな実をつけた木の下まで連れてくる。

「人が多すぎたか? 顔色が悪いぞ」
 
ジョシュは木の周りに置かれた石の上にルチアを座らせる。

「……ジョシュ……エレオノーラって、エラのことだよね……?」

「ああ。姫って確定したんだな。すごいよな」
 
ルチアの大きな目から涙がポロポロこぼれ始めた。

「お、おい? どうしたんだよ?」

「……ユリウスって……アドリアーノさまの名前なの。バレージさまやジラルドさまが言っていたわ。あの方は普通なら目も合わせられない人だって……きっとユリウスは国王さま……」
 
ルチアは悲しくなって、両手で顔を覆った。

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