しあわせの時間

2

私達は今、山道を歩いていた。
「はぁ…はぁ…」
なんでこんなことになっているのかというと、[自然の森センター]で管理者の話を聞いたあと、スケジュール通り施設場所確認としてキャンプ場内を一周するためにスタートした。ここのキャンプ場の真ん中には小さな山があって、あろうことか安達さんが「ここ越えたら近道なんじゃねー?」などと言い出して、登り始めたのだ。
いくら小さいとはいえ、登ると普通にキツイ…
それに、言い出しっぺの安達さんはちょっと歩くごとに座り込んで、「星花疲れたー!ちょっと休憩~」なんて言うもんだから、なかなか前に進まない。
いまどの辺なんだろ…?
ちらりと腕時計に目をやる。
11時半にまた広場に集合で、現在11時15分。
前方にはまだ上り坂…
「あの、まだ先長そうだけど大丈夫かなぁ…」
「俺は登山部だから問題ない。」
いや、藤崎、そういう問題じゃなくて!
時間の問題だよ、時間の問題!
「…多分間に合わないね。」
今までちっとも喋らなかった深澤くんが、いやにまともな返答をくれた。
久しぶりに深澤くんがまともに喋ったのを聞いた私は驚いてぽかんとしてしまった。

結局その後も頑張って歩いたけど、案の定間に合わず。
楽しいお弁当タイムを堪能してるところに汗だくで現れた私たちを見て、みんなはかなり引いていたようだった。
「おい3班!今何時か分かってるか」
楠原が私たちの前に仁王立ちになって低い声で問う。
「…はい。すいません。」
藤崎が潔く謝った。
「どれだけ心配したと思ってるんだ。」
「ご、ごめんなさい…」
私も頭を下げた。
右隣の深澤くんはパーカーのフードを目深にかぶって俯いている。
よく聞くと、すごく小さな声で「ああ、嫌だ…死にたい…こんなことならもっと早く死んどけばよかった…死にたい…」と呟いている。
いつものことなので、あまり気には止めなかった。
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