窓辺
十九歳
窓辺

午前9時。欠伸と共に始まる一限目。
窓際に座って、窓の外の春をみる。
私には、今なんの授業で、なんの為に勉強しててなんて、全然わからない。

私には時々ふと考えることがある。
十九歳というのは、何故こうもだらしなくて、子どもで、儚いのか。
楽しそうに飲み会をしたり彼氏の自慢をする同い年の友人達を見ても、その中身は空虚に見える。勿論歪んでいるのは私の方なのだとわかっているが。

十九歳は直ぐに大人になろうとする。前からわかっていた筈なのに余りにも突然やってくる二十歳に期待するふりをしてみる。でも大抵怖いことばかりでその怯えを隠すように振る舞う。
その癖こどものように欲が張っていて若い身体をどくどくと流れる血の如く、当たり前のように愛を欲しがる。
なんてだらしないのだろう。


高校生の頃はまだ何か柔らかいものに守られていて、子どもでもなく大人でもなく、ただ高校生であれば良かった。
勉学に励みながら、誰かに想いを寄せてみたり、ゆらゆらそれなりに懸命に生きていた。そこは、山奥の限界集落でもなく、かといって都会でもなく、こじんまりとした町の片隅。山々から映えてドーム状に高く広がる青い空、くっきりと腹が平らに揃った綿雲、混じり気のない透明な大気。不器用だが真面目なその頃の私は、様々な壁にぶつかりながら、いろんな人に迷惑をかけながらも、ちゃんと過ごしていたはずだ。

しかし、小さな町を抜け出し、この国一番の都会に出れば、空は青くなく、雲は平らに腹を揃えていないことを知る。
すれ違えば、今日もいい天気ね、などと話しかけてくれる人なんて都会にはいなかった。都会に出てたった数日で挨拶が下手になった。「おはようございます」や、「こんにちは」が出来なくなっていた。
私にとっての上京は、今までの常識が淡くほどけ散っていく様のようだった。


輪郭のない曖昧なこの世界で、私は大きく退いた自分にほとほと嫌気が差す。十九歳は何にもおいても満足が得られない。

十九歳になって気づいたことは、私が余りに幼過ぎるという事実。
此れから歳を重ねていけば変わっていくことがあるだろうか。今より心がすっきりとするだろうか。


窓辺から春の香りが鼻をつく。
花粉が鬱陶しくて仕方ないのに、凛とした風がたまらなく愛おしい。

淡々とやってくる毎日の中に、残り僅かな十九歳の日々がいつか愛おしいと感じられる日が来るようにと願って、だらしない私は今日も足搔く。
そして私は漸く黒板を見た。
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