聖夜の奇跡


「午後一番で生検ここでやるから」

「えぇっ?」



ゴム手袋を外して、慌てて検査予約表を見る。
医者って、なんでみんなこうなんだろう。


検査だってなんだって、思いついたらすぐやらなきゃ気がすまないのか。



「ダメですよ、午後からぎっしり大腸内視鏡入ってるじゃないですか」

「じゃあ、隣の部屋で」

「ダメですって、大腸の一番目、谷先生の患者さんですよ」



そう言うと、面倒くさそうにくたびれた白衣のポケットから手を出して後頭部を掻きむしった。



「そうだっけ。じゃあ、30分遅らせて、先に生検やる」

「………わかりました。じゃあ生検の患者さん、遅れないようすぐ連れてきてくださいよ」



私の返事を聞くと、了解の意味を込めてか片手を上げて、白衣を翻した。
その背中を見ながら、私は盛大にため息をつく。


谷先生は特に、こういうことが多いからいらつく。
だけど。


内視鏡部長をやってるだけあって、あの人の検査の腕前はすごい。
患者さんが嘔吐くことなくするりと喉を通してしまう。


その時の、横顔なんかはちょっとカッコよく見える、ときもあるけど。



「基本、ワガママ!」



とにかく先に、生検の準備をしなければいけなくなった。

< 3 / 29 >

この作品をシェア

pagetop