オフィス・ムーン
私は 自分の心臓が
凄くバクバクしてるのを
感じた。
「どうしたの?」
有森は不思議そうに私を
見ている。どうしたのっ
て…あんたの方こそどう
したのでしょ?今のは、
一応、告白ってやつじゃ
ないわけ?
「弟さんって、歳いくつ?」
「小学生」
「歳離れてるんだね、
ってか、僕、小学生と似
ているんだ?」
「小学生の時に…死んじ
ゃったの。私が…殺した」
「…事故?」
「弟は、私に必死で助け
を求めてたのに…私は自
分だけ助かって…弟の手
を…放しちゃったの。だ
から…私は弟を殺したの
…もう、ヤダ…何で話し
てるの…こんな事」
遥の瞳から涙が落ちた
「…」
有森は遥の頭を撫でた
「…忘れられない事も…
苦しいんだね」
「有森くん」
「じゃあ、君は、今まで
ずっと、僕と居て辛かっ
たんだ?」
「ううん、その逆」
「似ているから、辛い事
思いだすんじゃないのか
い?」
「弟が生きて私の側に居
るみたいで嬉しかったの
かも。今迄辛い事は、思
い出さなかった」
「…でも、僕は貴方の弟
なんかじゃないし。弟に
なんてなりたくない」
「ごめんね…嫌な話して
しまって。人に話したの
は、初めてなの」
「…僕こそ、ごめん。弟
になんか成りたくないな
んて言って」
有森と並んで外にでた。
大きな満月が照らして居
るのに二人は、それにち
っとも気が付かずに歩い
ていた。