ひとつだけ


「買おうかな。あ、もしかして買いますか?」

彼が手に持ってるものが最後の一冊だった。

「あ、でも……」

お互いにその本と相手を見比べる。

私はこんな風に初対面から会話は弾まないほうだ。
話しかけられてもそっけないほうだ。

なのに、彼には初めて会ったような気がしなければ、ずっと前から知っているような、古くからの友人のような、ううん、ずっと恋しかった人のようにすら感じる。


「あの~」
「あのっ」

お互い目を見合わせて小さく笑う。

「あ、どぞどぞ」

「いえ、そちらから」

私が彼に譲ると、コホンと小さく咳払いをして、
「この後お時間ありますか?」
と誘ってくれた。

「え?」

こんなナンパみたいなこと、今まで耳を傾けたことなかったのに。


「い、いや、あの。もしよかったらこの後一緒に読みませんか?」

「……はい」


―fin―




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