オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~



山間に囲まれた地域であるこの街は、東京より気温が少し低いため、桜の開花も半月くらい遅く、今が真っ盛りの時期だった。

バスから望む景色でもそれは十分に確かめられた。
公園前に続く道の街路樹にも桜が立ってていて、まるで桜でできたアーチをくぐるように、満開の中を進んでいく。

けれども、日本屈指の名所の光景は段違いだった。
バス停に降り立った瞬間から、飲まれるような桜一色の景色に息をのんだ。


「すごーい、綺麗…」


いやしくも企画業のはしくれ。表現力は日頃から磨いてきたつもりだったけれども、あまりの美しさに口を突いて出たのは月並みな感想だった。


「見事だな。東京のよりずっと綺麗だ」


けど向居も同様、息をのんでいる。
筆舌に尽くしがたいって、こういう風景を言うのよね。

大木の枝に大ぶりの花が一斉に咲いている様は、まるで桃色の群雲のようだ。
視界一杯にやさしく広がる淡い色彩が、まるで夢の世界に足を踏み入れるような幻想的な心地に誘ってくれる。

当然、観光客は多かったけれども、それでも花街通りから続く南口の人混みと比べると閑散としていると言っていいくらいで、この美しい光景が損なわれることはない。
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