オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~




私たちが入ってきた門は実は裏門にあたった。
正門である門は別の方角にあり、帰りはその正門から出ることにした。
正門へは寺町通りが伸びていて、土産物店や飲食店がたくさん立ち並んでいた。本来の私の予定では、ここを午前中に訪れるはずだった。
定番スポットであるそこは常に行き交う観光客でいっぱいで、歩くのも苦労するそうなんだけど、


「人が、いない…」


雑誌やテレビで見た時には観光客があふれかえっていたのに、目の前には人っ子一人いない。


「この時間はまだ店が開いてない。だから観光客も来ないんだ。へたしたらみんなまだ布団の中だよ」


「行こうか」と向居は先を歩いていく。
まっすぐ伸びる寺町通りは、気持ちいいほど端まで見通すことができた。
一面に敷き詰められた敷石が、キラキラと光っている。白灰色の御影石が朝の日光を照り返しているからなのだろう。観光客がいたら、分からなかった美しさだ。

土産物店はこの通りに建っていた古民家を利用したものなので、店を閉めている時は元の古民家の顔に戻って、通りに風情を加えている。
通りの所々に、小さなお社やお地蔵さんがひっそりあるのが、なんだか愛らしい。きっと何十年も何百年も前からこの地域を見守ってきたのだろう。
そしてそこに必ず小さなお花やお菓子が供えられているのも、この地域の人々との結びつきを感じて、やさしい気持ちになる。

素敵だな。

ただの観光スポットとしか見ていなかったけど、実はこんなに趣深さがあったなんて…。
< 84 / 273 >

この作品をシェア

pagetop