過ぎ行く時間の中で
光の射す場所
もう、どれくらいの距離を車で走っただろうか―。
ここがどこかも分からない。いや、場所はなんとなく分かっている。

なぜここを走っているのかが分かっていない。自分にも。
理由などなかった。ただ、闇雲に走らせていたのだ。

何かを考えたいわけでもなく、何かを思い出したいわけでもない。
ただ、夜の街は静寂に包まれて、この静寂を切り裂くかのように車を走らせることで、自分のおしとどまった気持ちを、どこかに走らせたかったのかもしれない。


『宇宙(そら)。何をそんなにいらいらしているの?』
「いらいらなんかしてねぇーよ。」


車の中は私一人である。しかし、先ほどから頭の中に誰かが話しかけてくるのである。
誰かといっても、誰というわけではない。自分が作った幻想なんだろうが、それが誰かというと、あいつだろう。

さっきまで一緒にいたあいつ。
たった今別れた、あいつ。
結女(ゆめ)―。


『じゃぁどうしてそんなにぶっきらぼうなの?』
「一人でへらへらするバカいねぇだろ。」
『ははは。そりゃそうだね。』


そう。結女は無邪気で、私とはどちらかというと、正反対な女性だ。
この結女との出会いはちょうど5年前。人がうらやむようなドラマティックな出会いではない。

ありふれた出会いかどうかはわからない。
ただ、人がうらやむような出会いでもなかった。


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