俺様副社長の溺愛秘書
優しく頬を撫でる手に目を閉じる。



「朱里、覚悟はしておいてくれ。」


「覚悟?」



閉じていた目をもう一度開けた。



「仕事は辞めてもらう。これは俺の我が儘だ。」


「…………。」


「朱里、愛してる。」


「尚輝。」



コトッ。



小さな音が車のドアの辺りから聞こえてきた。頬を撫でていた尚輝の手が止まる。


体をドアに向けた尚輝が思いっきり開けた。



「聡………。」



尚輝の大きな溜め息が漏れた。悠木さんは立ち上がり、ズボンのお尻をパンパンと払った。



「ほら、俺の車だし。」


「聡、盗み聞きか?」


「いや、ねぇ?」


「何がだ。」



不機嫌な尚輝とは反対にニヤニヤとしている悠木さんは話を聞いていたに違いない。



「ほら、朱里も買い出しに行くよ。」



悠木さんの明るい声が車内に響く。私は車から降りて伸びをした。



「悠木さん、行きましょう。尚輝も行こう。」



私の掛け声に大きな溜め息を吐いた尚輝も手を繋いで店内へと向かった。
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