幼馴染は関係ない
8話
私の住むマンションまで新君は送ってくれた。
「ごめんね、朝も来てもらったのに送ってもらちゃって・・・」
私がそう謝ると、新君は、首を横に振って、
「僕の方が・・・朝はごめん・・・本当にあんな事するつもりなかったんだけど・・・」
と力なく言った。
私はきっと真っ赤になってしまっている。
だって、今日は二度も新君に抱かれたんだって思い出してしまったから。
「ほんとに、あの、それは大丈夫だから・・・」
私は恥ずかしくて俯く。
「お父さんとお母さん帰ってるんだよね?」
「多分・・・」
「挨拶していきたんだけど、ダメかな?」
「え?」
「ほら、予定を早めて花音だけ帰ってもらったり、留守の時ばかりお邪魔しちゃって挨拶したことないから」
と言った新君。・・・やっぱり凄く真面目な人だなって思った。
だけど・・・。
「あの・・・ごめんね。 実はお父さんに、今日会ってるのは友達って言ってて」
「え?」
「彼氏がいるって言ってなくて・・・だから、あの」
「あ・・・そっか・・・分かった」
「ごめんね」
「いや・・・」
明日、楠木先生のお宅へ一緒に行く約束をして新君は帰って行った。
寂しそうな顔をして・・・。

家に帰ると両親が揃っていた。
「花音、お友達と楽しかった?」
と母は少しニヤついた顔で訊いてきた。
「うん、すごく楽しかった」
「どこに行って来たんだい?」
と父が訊いてくる。
「バイト先の喫茶店に行って、お買い物したりブラブラしたよ」
「カラオケとかゲーセンとか行かないんだ?」
とまた母。
「私達、そういうキャラじゃないから」
「ふ~ん、大人しい子なんだ?」
「お母さん、何が言いたいの?」
「ううん、別に。 どんな子かな~って気になっただけ」
と言う母。
父は怪訝な顔で、
「花音の友達をどんな子だなんて今まで訊いた事あったか? 何かあるのか?」
と母に詰め寄った。
「ううん。 小学の同級生で名前も顔も知ってる子なんだけど、性格まで知らないから少し気になっただけ」
と母は慌てて答えていた。
・・・新君の事、彼氏ですって言うチャンスかも。と思ったけど、嘘をついて今日デートしていたと父が知ると新君の心象が悪くなってしまうよね・・・と思って言えなかった。


次の日、私は友達と担任の先生のお宅にお邪魔すると言って家を出た。

母には、「新君のお姉さんが楠木先生の奥さんなんだ」と前から伝えてあるので納得してくれた。
父は、
「お盆に担任の先生のお宅に行くなんて非常識じゃないか? しかも担任て男性だろ?」
といい顔をしなかったけれど、
「・・・奥さんが友達のお姉さんなの」
また新君の事を友達と言ってしまった。・・・彼氏と言えない不甲斐ない私。
「昨日会っていた友達の?」
「うん」
「凄い偶然だな? 花音の担任の先生の奥さんが お友達のお姉さんなんて」
「そうなの! ビックリでしょ!?」
「ご迷惑かけない様にするんだよ?」
「はい、行ってきます!!!」

玄関を勢いよく出ると目の前に竜生。
「うわっビックリした・・・どうしたの?」
「お前、今日もバイト?」
何ともいえない、嫌そうな顔で竜生は言う。
「え? 違うけど・・・?」
「どっか、行くのか?」
「うん」
「・・・」
無言の竜生に私から訊く。
「なんか用だった?」
「・・・昨日お前だけ先に帰ってたんだって?」
「え?」
「昨日、ちょうどお前の小父さんと小母さんが帰ってきた時会ったんだ。 そしたら花音だけ朝に帰ってるって言ってたから」
「うん、そうだけど?」
「なんで?」
「なんでって・・・何?」
「毎年お盆は小父さんの実家に一泊して夕方帰ってくるのか恒例だろ? なのになんで?」
「・・・それって、竜生に何か関係ある?」
「は?」
「私、急いでるんだよね。 悪いんだけど、行くね」
「あっ おい! 花音!」
「ごめんっ ほんとに急いでるの」
私は小走りしてエレベーターに向かう。
何故か竜生までついてきて、エレベーターに乗り込んできた。

「お前・・・まさか、男と会うとか言わねぇよな?」
「・・・まさかって何よ。 失礼ね」
どうせ、私にはデートする相手なんていないって思ってたんでしょ?
「デートなのか!?」
「大きな声出さないでよ」
そうよ、これからデート!と言おうと思って、ふと考えた。
今、それを竜生に言ったら、私の家に行って両親の前で「花音がデートなんて驚き」と言ってしまうのでは?と・・・。
それは、マズイ。
さっき、父に 今日会うのは友達だと言ってしまっている。
「おい、どうなんだよ!?」
私は竜生を見上げて言う。
「竜生・・・あのさ。 私が誰と会っても竜生にいちいち言う必要ないよね?」
「それは・・・」
「竜生の彼女が変わったって話とかデートの約束とか私に報告するのもおかしいよね?別に聞きたくないし」
と私が不機嫌に言うと、急に機嫌の良くなった竜生は、
「そっか、聞きたくないんだ? 俺の彼女の話とかデートの話しとか」
と言った。
・・・そりゃそうでしょ? いつだって自分がモテるという自慢話なんだから。
「どうでもいいからね~ 竜生の恋愛事情なんて」
「はぁ!?」
「じゃあ、行ってきま~す」
私はエレベーターを下りて玄関を飛び出した。 
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