桜祭り!【SS集】
――そんなお花見から数日後。
聖はお休みの日なのに、朝早くからひとりで出かけてしまった。しかも、なぜか『弁当を作って待っていろ』という言葉を残して……。
「言われた通り、作ってはみたけど……お花見に行くのかな? もう桜も散ったと思うけど」
できあがったお弁当を見つめながら待っていると、ドアの開く音がした。
「明、帰ったぞ」
「あっ……おかえり。お弁当作ったけど、これからどこかに……って、それ……どうしたの!?」
帰ってきた聖は、ほのかに色づいた桜の盆栽を抱えていた。
「明と花見をしようと思って。ただ、本物の桜は時期が終わったらしくて、造花になってしまった。悪い」
残念そうに肩を落としながら、小さな桜の盆栽を差し出してくれる。造花といっても、近くで見なければわからないほど造りが繊細。
……聖のことだから、どこかの職人さんに作らせたんじゃ……。……でも、気持ちがすごく嬉しい。
「ありがとう……すごく可愛い」
「当然だ、俺が手配した桜だからな。それより、ベランダで花見をしよう。明の作った弁当が早く食べたい」
まだお昼前だというのに、聖がいそいそとテーブルをセッティングしだす。
「おい、明! 早く花見を始めるぞ」
「うん、わかった」
急かす聖がかわいくて、クスリと笑みが漏れてしまう。
よし……せっかくだから、ビールも飲もう。
セッティングしてくれたテーブルにお弁当とビールを持って行くと、ふたりで乾杯する。
晴れた空の下、マンションのベランダで造花の桜を楽しみながら、お花見……すごく小さな会場だけど、とても贅沢な空間な気がした。
「……うまいな、さすが俺の嫁。好みの把握が完璧だ」
聖は頬を綻ばせながら、次々におかずを平らげていく。その様子に、胸がじわりと温かくなった。
「桜って、やっぱりいいよね」
こんな幸せな気分にしてくれる桜ってやっぱりすごい。……なんて、聖が用意してくれた桜をチョンと指で突いていると。
「……おい、何してる」
ちょっと不機嫌そうな顔をした聖に、その手を取られてしまった。
「あ、ごめん……桜、触っちゃダメだよね」
「……違う、構うなら俺を構え」
「……へ?」
「いや……やっぱり、やめた。俺がお前を構ってやる」
ニヤリと笑った聖は腰をあげると、逞しい腕で私を横抱きにする。
「ま、待って……まだお花見中……!」
足がふわりと地面から離れたと思ったら、そのまま部屋の中へと運ばれる。
「ああ、花見は一時中断。今からお前を愛でる」
「ちゅ、中断って……!」
聖に寝室へ連れて行かれると、ベッドに優しく寝かしつけられた。
「やっぱり、花見は家でするに限るな。……すぐに、お前を抱ける」
「えっ、ちょ、ちょっと待って……! これ、お花見って言わな……っ、んんっ……!」
私の言葉は、覆いかぶさってきた聖のキスに奪われてしまう。
「来年も花見をするぞ、明」
「……こ、今度は私が計画するからね」
来年こそはちゃんとしたお花見を……! と、妙な気合いが入る。
「ああ、楽しみにしている」
気合いを入れたのも束の間、聖からの優しい口付けに、すぐに思考は彼のことでいっぱいになってしまうのだった――。
※「キミは許婚」のカップル
*あとがき*
ヘリでお花見からの→家で造花のお花見……という、
贅沢なんだか、そうじゃないんだかなお話。
このふたりとは野いちご時代からの付き合いですが、今もこうして書けることが嬉しいです。