奏でるものは~第1部~
3月の春休みの平日。
その日の午後は華道と茶道のお稽古から帰ると、今日は出かけると言ってた姉はまだ帰っていなかった。
食堂で水を飲んでいた。
その時
珍しく、家の電話が鳴った。
両親がいないときにかかってくることは滅多にない。
嶋さんが、電話に出ると
「ちょ、、ちょっとお待ちください」
と私をみて、一瞬の沈黙の後
「歌織さん、警察から。
です。」
……は?私に?
不安が体を襲う。
受話器を受け取り、耳にあてる。
「お電話変わりました」
『サイタユイカさんのご家族ですか?
失礼ですが、名前とご関係を』
「サイタカオリです。ユイカの妹ですが…」
久しぶりに本名を名乗る。
『わかりました。
唯歌さんが交通事故に合われました。
すぐに、病院まできてください。
それから、ご両親にも連絡とれますか?』
足が震えたが、病院の場所をメモして、電話を切った。
「嶋さん、すぐに車をお願い」
「大丈夫です、何かありました?」
簡単に事情を説明してすぐに父に電話した。
父もすぐに病院に向かうとのこと。
保険証を棚から出して玄関に急ぐ。
病院に向かう車中。
――お姉ちゃん、無事だよね?
胸に広がる不安に、蓋をするように笑顔の姉を、思い浮かべた。