眠れぬ王子の恋する場所


逃げ続けるってことは、結局その出来事に捕らわれ続けるってことだ。

向き合って精算しなければ、いつまで経ってもそれは膿みたいに残ってしまうものなのかもしれない。

きちんと……あのお金を盗んだのが誰なのか、元彼じゃないのかを確認しないと、私は前に進めない。


社長に江崎隆一の居場所を教えて欲しいとお願いしたら、一瞬、驚いた顔をされたあとニヤリと嫌な笑みを浮かべられた。

私の話の持ち出し方からなのか、雰囲気からなのか、隆一が元彼だとすぐにわかったらしい。

「久遠のことで世話になってるし、調べてついでに俺がしめてきてやろうか」という物騒な提案を断り、住所と勤め先だけ教えてもらうと、そこには知っている会社名が書かれていた。

私が辞めたあとも、同じ会社で働いているらしい。
私を追い出して、おそらくお金まで盗んだくせに今も自分はそこでノウノウと働いているのか……。

会社を辞める間際、周りから浴びせられた視線だとか、隆一が私の悪い噂を言い広めている姿とか……そういったものが頭をよぎる。

ムカムカジクジクと苛立ったり痛んだりを繰り返す胸に、やっぱり私は隆一とのことをきっちり解消できていないんだということを自覚する。

もう顔も見たくないからと胸の奥の箱にしまっていたけれど、犯人をはっきりさせるのが怖くて見ないふりをしてきたけど。

いつまで経ってもその箱は私のなかで主張し続けていた。

正直、そんなの邪魔でしかない。

――だから。







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