眠れぬ王子の恋する場所


隆一に一度裏切られたからといって、もう二度と恋なんかしないと誓ったわけじゃない。

それでも、今はまだ他人を信じるのは怖いと思ってしまうのは仕方ないことなんだろう。

だってまだ、別れて半年ちょっとしか経っていないんだから、踏み出すのが怖くても当たり前だ。
あんな衝撃的な元彼、当然はじめてだったし。

だから……久遠さんへのこの気持ちを、まだ恋だと決めるのは怖い。


そんな風に、自分の淡い恋心を持て余しながら、久遠さんと同じベッドで眠った翌々日の月曜日。

吉井さんと石坂さん、そして私がオフィスに揃い、しばらく経ったところで社長が思い出したように話しかけてきた。

午前十時。
隣に座る石坂さんの香水が少々キツくて、向かいの席の吉井さんはわかりやすく嫌な顔をしてタブレット端末に視線を落としていた。

「佐和、久遠から聞いたけど、おまえのアパートでボヤ騒ぎがあったらしいな」
「え……っ」

土曜日から久遠さんのところでお世話になっているから、アパートの状況は知らない。

私が部屋を空けている間に本当にそんな騒ぎがあったのかと心配になっていると社長が続ける。

「煤がひどいとかで、一時的に住めなくなったんだろ? だから久遠が部屋貸してるって言ってたけど、大変だったなぁ。騒ぎがあったとき、部屋にはいなかったのか?」

社長の話に、ああなるほど……と納得する。
これはきっと、久遠さんが気を利かせてくれたんだ。私がアパートにいないことを不思議に思われないようにって。

吉井さんたちは気付かないにしても、社長は私の部屋を知ってるし、なにかあったとき、そこにいなかったらおかしい。
一応、社員である以上、正式な住所を社長に知らせておく義務だってある。

だから、私が別の場所で暮らしているってことを伝えてくれたんだろう。



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