眠れぬ王子の恋する場所


まず、二十九歳にして代表を務める、三ノ宮社長。

そして最近やたらと女性からの指名が多い、吉井さん二十五歳と、私だ。
二十一歳の私が、年齢的にも勤務年数的にも一番下になる。

一階がカフェ、二階がネイルサロンという三階建て複合ビルの最上階にオフィス・三ノ宮はあった。
ビル自体は新しく、まだ築三年ほどで外から見ても中から見ても綺麗だ。

自動ドアから入り、グレイのタイルが敷き詰められているフロアを抜ける。

そして奥にある共通階段を上がると、〝オフィス・三ノ宮〟と書かれた立て看板があり、その先にオフィスに繋がるドアがある。

平日の十四時。
ドアノブにかけられているプラスチックの札は、〝OPEN〟になっている。ちなみに、エレベーターはなく、男性陣ふたりが悲鳴を上げている。

「ただいま戻りました」

ドアを開けながら言う。
オフィスの広さは、二十畳ほど。一番奥に社長のデスクがあり、その手前に、デスクがよっつ固まった島がある。

吉井さんと私の使っている二台以外は物置スペースだ。

社長の後ろにある大きな窓からは、高い位置に昇った太陽の光が降り注ぎ、照明の必要はないほど。
明るさだけではなく、熱も乗せて入ってくる太陽光は、冬こそ助かるけれど、真夏に差し掛かろうとしている今は、ただの嫌がらせだ。

それを後光のように背中に受けている社長が、苛立った様子でガンガンとエアコンの設定温度を下げるものだから、オフィス・三ノ宮の室温はいつも二十五度。

寒がりの私には薄い上着とひざ掛けが必要な温度だった。

オフィスの隣には、小さな給湯室があり、その更に隣に応接室がある。そこが、依頼人と話すスペースとなっている。

オフィスをツカツカと歩きデスクにバッグを置くと、それまでイヤホンをしてスマホゲームをしていた社長が顔を上げた。

そして、ゲームが一区切りついたのかイヤホンを外すと、口の端を吊り上げ私を見る。


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