眠れぬ王子の恋する場所


「まぁ、でも飯がうまかったならそれでいいだろ。もう蒸し返すなよ」

私がじっと見つめすぎたからか、ぷいっと目を逸らした久遠さんがそれまでとは違う態度で言う。

その、いつも通りの横顔にふっと笑みがこぼれた。

「じゃあ、あのレストランの天井の絵が変わらないうちに、今日食べそこなったデザートを一緒に食べに行ってください。私がおごりますから」

ず……とお茶を飲みながら視線だけこちらに向けた久遠さんに「私も悪かったから、それでおあいこです」と言うと。

安心したような、気の抜けたような微笑みを返される。

胸の奥で、しまったはずの感情がトクンと音を立てた気がして……そこにそっとフタをかぶせた。


『もう誰も信じないとか言ってたっけ。元彼にひどい裏切り方されたから』

久遠さんがどうとか、そういうわけじゃない。

でも……一歩踏み出すのはまだ怖い。




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