眠れぬ王子の恋する場所


「家庭内がそんなドロドロしてたなんて、久遠財閥のスキャンダルですよ。……でも、守秘義務があるから、黙っててあげます」

顧客の情報は、ペラペラと口外しない。これは会社の規則だ。

それにしても……と、目を閉じ、さっきの話を考えた。

私はこどもがいないし、母親の気持ちはわからないけど……あんなのはひどい。
久遠さんのお母さんは、自分のせいで久遠さんが二十年以上も苦しんでるって知ってるんだろうか。

「もし、私が久遠さんのお母さんだったら……。久遠さんが熱なんか出したら、心配でずっと枕元にいたのに。桃太郎だってなんだって、何回でも読んであげたのに。
……そしたら、久遠さん、不眠症になんてならなかったのに」

熱い呼吸を繰り返しながら、ぽつぽつと話す。

これが夢なんだか現実なんだか境がわからなくなってきていた。

「いい加減、寝ます。久遠さん、帰るならスペアキー……」

言い終わる前に、急に影が落ち……上半身だけ覆いかぶさるような体勢になった久遠さんにキスされる。

驚いて肩を揺らすと軽く触れた唇が離れ、また近づき優しく重なる。

「守秘義務があるんだろ。だったら、これも黙っとけよ」
「……移っても文句言わないでくださいね」

ああ、でも風邪を引いたら久遠さんも寝ざるをえなくなるのか……と考えていると、柔らかく唇を塞がれる。

目を閉じ、気持ちがふわふわと浮くようなキスを受け入れながら、守秘義務以前に、こんなの仕事じゃないと、熱に浮かされた頭で考えた。




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