エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 つい先日のことだ。

「これ、知り合いからもらったチョコレートなんです。よかったらどうぞ」

 ほかの女子には内緒ですよと言って、彼は正方形の小さな箱を私のデスクに置いた。
 包み紙には、高級ブランドの店名が印字されていた。


 どんな知り合いかはわからないけれど、軽い気持ちでこんな高価な品物をプレゼントするだろうか。

 商談で訪れる取引先の女性が、二階堂さんにプレゼントを手渡しているシーンをときどき見かける。

 彼女らはみんな、「よかったらどうぞ」とあくまでも仕事上のさりげなさを装っている。
 けれどそのあと必ず「今度時間があったら……」とプライベートなアポイントをとろうとするのだ。

 二階堂さんはさらっと受け流しているけれど、相手の女性のがっかりした顔を見ると、自分の姿と重なって、胸が痛くなる。


 二階堂さんは優しい。
 でも、社交辞令の優しさを特別なものと勘違いする人は、きっとたくさんいるはずだ。

 ――私も含めて。

 もしかしたら、これは本当に仕事上の、深い意味のないプレゼントかもしれない。
 けれど、誰かの特別な気持ちがこもった可能性のあるチョコレートを、私が受け取るわけにはいかない。

 私はチョコレートの箱を二階堂さんに返す。

「すみません。いまダイエット中なんです。これは二階堂さんが食べたほうがいいと思います」

「そうですか……わかりました」

 二階堂さんは寂しそうに笑う。
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