EGOIST
「私は、高望みしすぎなのかもしれませんね」

その言葉や表情は、酷く頼りなかった。

なら、俺にしとけばいい。

そう、ダンテは思った。
少なからず、自分はラッセルよりも信頼されている。
腕っ節にも自信はある。
何があっても、エレンの傍から離れることはない。

そこまで考えて、ダンテは思考を中断した。
何を馬鹿なことを考えているのか。
自分にはちょっとスリリングな、それでいて平凡な生活があっている。
必要以上に踏み込まない、もうあの場所へは足を踏み入れない、踏み入れたくない。
ならばこの思考に意味などない。

そう、ダンテは思い、それまで考えていたことをなかったことにした。
のだが、目の前にいるエレンは珍しく驚愕していた。
どうしたのだろうか、とダンテが思ったのは一瞬。
そうしてダンテ自身驚愕する。
今しがた考えていたことが、口から出ていた。
「なら、俺にしとけばいい」と―――。

平常を取り戻したのはエレンのほうが先だった。

「冗談でも、そのようなことを言っては駄目ですよ」

そう言い、笑みを浮かべた。
その笑みには、様々な感情が綯交ぜになっていて彼女の感情を読み取ることが出来ない。

何かを言わなければ、そう思うのに言葉は出てこない。
何を言えばいいのか分からない。

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