ごっこ遊び


「豚肉が現れた」

新刊コンパから数日後、柊碧人がわたしの家に肉を持って現れた。

「生姜焼きでも焼く?」

生姜焼きとサラダとごはんとみそ汁を並べる。こうして食卓を囲むと、本当に弟みたいだなと思った。
当たり障りない話をして会話がつきた頃、テレビでは、ハチマキをしたお笑い芸人が叫んでいる。
笑っていると、柊碧人がわたしを見つめていた。

「え? 何?」
「別に、楽しそうだなって思って」
「うけるじゃん、これ」
「うん。まあまあ」
「随分、上から目線だこと」
「この前、新刊コンパ、すぐに帰ったでしょ?」
「うん。お腹いっぱいだったから」
「そっか」

あはははと、テレビを見てわたしは笑う。

「ねえ、美優さん」
「うん」
「今度、どこか行かない?」
「どこかって」
「美優さんが喜びそうなところ」
「夢の国とか?」
「意外。喜ぶんだ」
「どうだろうね。でも、わたしは行かないよ」
「ねえ、美優さん」
「ん?」
「こっち向いて」
「何? いいとこだよ」
「もういいでしょ?」
「もういいって?」
「俺が卒業式で言ったこと、思い出しなよ」
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