つぎの春には…


「栞を泣かせたら、息子であっても容赦しないから」


笑顔でそう付け加える



「…母さん、大事にされてんだな」


驚いた表情を見せた後に少し穏やかな表情で呟く少年




「よしっ行くぞ!」



少年の背中をポンと叩き立ち上がる



「え?ちょ…行くってどこに?」


少年は俺に促され立ち上がる


「いいから乗れよ」


そう言って少年を営業車の助手席に乗せる


シートベルトをしたのを確認し車を発進させる



少年の通う高校でも自宅でもない方へ車を走らせる





そして一軒の料亭の駐車場に車を停める



「ここ…」


「降りな」


少年を車から降ろし、入口へ向かう。



市街地の中にひっそりと佇む隠れ家的な料亭『田中』




「いらっしゃいませ。あら兼元さん、お待ちしておりました」


玄関を開けると女将が出迎えてくれた



「こんにちは。今日はお世話になります。1人、増えても大丈夫ですか?」


「ええ、もちろんです。今、博之呼んできますので、こちらへどうぞ」


女将は俺達を部屋へ案内し、店の奥へと入っていく


ここは俺と杏の大学の後輩の実家が営む料亭


施設はもちろん接客も味も間違いないので公私共によく使わせてもらう



個室に入るとすぐに、女将に指示を受けた仲居が追加の1人分のセットをし始めた




「お待たせ致しました。失礼致します。」


セットを終えた仲居が部屋から出て襖を閉める



「座れよ」


新たにセットされた席へ少年を座るよう促し、隣の席へ座る


少年も挙動不審気味に促された席へ座る


「こんなとこ、俺払えないよ」


心配するところはそこなのか


「心配しなくても年下に払わす趣味はねぇよ」


向かいには2つ席が用意されている



「海にでも連れてってやりたいところだけど、生憎と海は遠いし、俺は今日は仕事も詰まってるから、1日社会勉強ということでお供しろよ」


「別に連れてってなんて頼んでないんだけど?」


顔を背けて言う少年


「どうせ学校にも行くつもりなくて暇だったんだろ?」


ふっと笑みをこぼすとちょうど「失礼します」と襖が空いた。




「拓さん、お久しぶりです。…高校生?」


顔を出したのは女将の息子の博之


俺と杏の大学のサークルの後輩



「おぅ博之、いつも悪いね。そ、高校生。俺の将来の息子。」


俺の言葉に少年も博之もポカンと口を開けたまま固まった


そこへちょうど、女将がやってきた



「あら、博之、なんて顔してるの。兼元さん、お連れ様がいらっしゃいましたよ。」



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