つぎの春には…



あの川沿いの桜並木も来年は行けないかもしれない





飛行機を降りると異常な程の人の数


空港直通の電車の駅へ歩を進めるが、途中の電光掲示板に足が止まる



『事故のため運休中』


なるほど…空港内の人の多さに納得する


皆足止めを食らってるというわけだ




どうしたものか





「あれ?拓ちゃん?」


表示の変わらない電光掲示板を眺める俺の後ろから、またしても杏の声


「杏…なんでここに…?」


杏を振り返り問う


「たー」

杏に抱かれたもうすぐ1歳になる杏の娘が手を振っている


どうやら俺を認識してくれているらしい


「旦那が海外遠征でさっき飛び立ったのよ。今日仕事休みだったから見送りにね。」


「そっか。しばらく寂しくなるな」


杏に近寄り果奈の頭を撫でる


「電車止まってるんでしょ?車で来てるから乗ってけば?」


杏からありがたい提案


「あぁ、助かる。サンキュー」


返事は迷うことなくイエス


今日ほど杏の神出鬼没さに感謝する日はないだろう


「駐車場までちょっと歩くけど…」と言いながら歩き始めた杏の隣を歩く




空港を出て5分くらい歩いたところの駐車場の中に杏の赤い軽自動車を見つけた




「拓ちゃん、果奈と一緒に後ろ乗ってね~」


そう言って、果奈を運転席の後ろのチャイルドシートに乗せる


俺は反対のドアから果奈の隣へ座り、シートに深くもたれかかる


熱がある時の体温計の数字を見るとどっと体が重くなるように、癌の告知をされてから体の痛みとダルさに気付いた


長時間の移動はやはり堪える



隣を見るとチャイルドシートに座りベルトをされた果奈が「くー」と言いながら靴を引っ張っていた


「拓ちゃん体調悪いの?」


運転席に座り、シートベルトをしてエンジンをかけた杏がルームミラーを覗き込みながら言った


こいつの観察力には本当に感心する


「あぁ、ちょっと疲れただけ」


杏にもそのうちにちゃんと言わなきゃな…


「そう?家まで寝てていいからね」


少々疑っているようだが、深くは突っ込んでこない


それがこいつの良さ



杏の言葉に甘えて俺は瞼を閉じる



車が進み出す


杏の運転は丁寧で上手い…時々イラつくのか荒いこともある


昔から変わらないな



心地よい揺れに深い眠りに入っていく



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