つぎの春には…


しかし俺の決意虚しく最初は効いていた抗癌剤も効かなくなり再び癌が進行を始めた



次第に目を開けているのもしんどくなり、起き上がることも困難になってきた



そして年末にICUに移される





「拓」


光に呼ばれ目を開けると視界もぼやけている事に気付く


「なぁ光、俺もうダメなの?お前の顔すらまともに見えねぇわ」



栞のところへ帰るって約束も果たせねぇのかな





「昨日、抗癌剤の新薬が届いた…ただまだ臨床試験段階の未知のものだ」


光が渋い顔をしている


使うべきか悩んでんだろうな





「使えよ。栞のところに帰れる可能性がゼロじゃないならなんだっていい」


このままならただ死ぬだけだろ?



俺は帰りたいんだ


栞と子ども達が待つあの温かい家に



光が深く頷くのを見届けて再び意識を手放す








深い闇の中をさまよった


どこまでも続く闇の中にひとつの灯りが見える


その灯りを目指しひたすらに走る










目を覚ますと元の病室に移されていた


右手を目の前にかざし動かしてみる



まだ生きてる




「よぅ親友。目が覚めたか」


そこへちょうど光が入ってきた


「俺生きてんの?」


一応確認をとる


「当たり前だろ。栞さんのとこに帰るんだろ?」


光の説明によると俺は2週間ほど目を覚まさなかったらしいが、臨床試験段階の新薬の投与により容態が安定したらしい


「死の手前まで行ったからな後遺症も残るかもしんねぇけど…2週間後に再検査して、状況をみて放射線治療に移る」






その後の2週間も安定していて、検査の結果、光の言ったように放射線治療が始まった






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