先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 まだ鼻血に手間どっているらしい。
 そのうちノゾミは床に座り込んで、壁を背にもたせ掛けた。

「すみません。はしたないですけど、ちょっと疲れちゃいました」

 鼻を手で押さえているが、ちらっと血の付いたティッシュが見えた。

 それは赤が鮮明に浮き上がってみえ、やはり鼻血であっても怪我をしてるみたいで心配になってしまう。

「大丈夫か」
「はい、ただの鼻血ですから」

 力なく笑うノゾミの顔が暗さのせいで、とても青白く見える。
 壁と階段とドアしかない小さな空間も、薄暗くぼんやりとして灰色の世界だった。

 ノゾミの鼻血だけが怖いほど鮮明に赤く目に焼きつく。
 俺はノゾミの隣に腰掛けた。

「止まるまでここで一緒に待っててやるよ」
「それじゃ、止まらない方がいいかもしれませんね」

 中々しゃれた事をいうじゃないかと、ノゾミに振り返れば、ノゾミの瞳がうるんでいる。

 それを誤魔化すように笑って目を細めるから、俺もつい愛想笑いを返したが、なぜかもの悲しく思えてしまった。

 ノゾミとの約束の期限までこの時点で残り一ヶ月と数日。
 すでに半分以上も過ぎ去っていた。
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