先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 すっかり世話になってしまったユメにお礼を言って、そこを出たのは9時を過ぎた頃だった。
 ノゾミも俺について来て、一緒に肩を並べて歩いている。

「このまま、どこかへ行こうか」

 俺はノゾミとデートを楽しみたかった。
 それなのにノゾミは浮かない顔をして躊躇っている。

「あの、折角なんですけど、ちょっと今日は……」
「何か用事でもあるのか?」

「いえ、その、ちょっと体調が悪くて」

 そういえば、朝早くにやってきたノゾミは疲れていた。
 そして相変わらず、貧血を起こしそうに顔が青白い。

 その時俺ははっとした。
 もしかしてアノ日……

「ご、ごめん。無理には誘うつもりはないから。そっか体は冷やしちゃだめだぞ。早く帰った方がいいな」

 急に慌ててしまった俺の顔を、ノゾミは不思議そうに見ていたが、やがて、はっとして、顔を赤らめる。
 青白い時にも、恥ずかしい時は赤くなるのがノゾミだった。

「その、ち、違うんです。あの」

 俺はあたふたしているノゾミの手をそっと握った。
 ノゾミはビクッとして驚いていたが、やがてしっかりと俺の手を握り返してきた。
 ノゾミの手はひんやりと冷たかった。

 相変わらず、空はどんよりとして曇り空ではあるが、俺の今の気持ちはドキドキとして弾んでいる。
 そんな時に見る垂れ込めた雲も、雨が降らないだけ悪くなかった。

 早く梅雨が明ければいいと思った時、ノゾミとの約束の期限がどんどん迫ってることに気が付き、俺は我に返る。

 ノゾミの手をついギュッと強く握ってしまうと、ノゾミは俺を見上げていた。
 そんなノゾミの顔つきも、どこか陰りがあるように見えたのは、俺の事を心配してだろうか。

 俺もノゾミも約束の三ヶ月の期限が迫りどこか不安定になっていくようだ。
 期限まであと29日。

 とうとう一ヶ月を切ってしまった。
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