磁石の定義
少女はきれいに笑う(プロローグ)
バカみたいに青い空は、その清々しさとは反対に 寝不足の私の気分を損ねてしまう。

昨日の雨が嘘みたいにてらてらと輝く太陽が私の肌を焼く。
焼きたきゃいくらでも焼けばいい。朝は全てがどうでもよくなる。

自転車のペダルをゆっくりと漕ぐと、そよそよと私を吹き抜ける風が心地よい。

春風の名のもとにしあわせな気分になれる。
ごく平凡な、生きていると感じる、素朴な部類のしあわせ。




「そろそろ千代もうちも、本当のしあわせを手にいれなきゃ!!!」

そう言ったのは中学からつるんでいるクラスメイトの明穂だ。

「高校って言ったら出会いだよ、千代?
今までは地元っていう限られた空間だけの世界だったけど、もう うちら中坊じゃないんだよ?
青春の1ページ、華の高校生だよ!
いい男探さないと!」

「はいはい、明穂ならよりどりみどりだよ、」

「こらっ、本当にそう思ってんの?」


ふざけた口調で 思ってますうー と言うと、明穂が わざとらしー とげらげら笑った。

ふいに明穂が、笑うのを止めて口を開ける。



「ほんとはね、」

明穂の顔が、切なく変わる。


「まだ、ケンゴのこと、忘れられないんだあ。」


明穂はそう言いながら、とてもきれいに笑った。

少し下がり眉になった笑い顔の 目の奥に、悲しい色が見え隠れするのを、私が見落とすはずがあるだろうか。

なぜなら明穂と私は、似た者同士だから。


つまりは、私も明穂に負けないくらい、きれいに哀しく笑えるのだから。

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