あなたが生きるわたしの明日
忙しい日々が続いていた。
なんせ二週間で企画書を完成させなければならないのだ。
それも、まったく企画書なんて作ったこともない人間が!

書類整理課としての仕事がほとんどなく、依頼が来たとしてもすぐに終わらせることができたのは幸運だったけど。

「まただ……」

最近では夜の七時、八時までみんなで企画書を書いていることが多いんだけど、相変わらず同じ番号から電話がかかってくる。
これだけ無視しているんだから、普通はあきらめるとおもうんだけど、ほんとうにしつこい。

電話登録をしていないところを見ると、陽子さんのストーカーなんじゃないかとさえ思う。

「また鳴ってますね」

亜樹ちゃんに言われて、ごめんと謝る。

「うるさいよね。集中できない」

スマホをバッグから取り出し、音を最小にした。

「いえ、いいんですけど。毎日かかってきてませんか?」

亜樹ちゃんが言うと、凪くんが「誰からなんですか?」とのんきな声で尋ねた。

「大原っ! 誰からとか聞くんじゃないの! プライバシーの侵害よ!」

「そこまで!?」

二人のやり取りに思わず笑ってしまう。

「わかんないのよね」

「うわぁ……それは怖いですね」と亜樹ちゃんがきれいな顔をゆがめる。

「着信拒否しないんですか?」

「うん、まぁ」

私だって、もしこれが自分のスマホだったら今すぐに着信拒否している。

だけど、これは陽子さんのスマホなんだ。
服とかメイク方法とかはさんざん好き勝手に変えているけど、スマホだけはなんとなく勝手に触っちゃいけない気がするのだ。

普通だったら、他人に一番見られたくないものだろうし。

「まぁ、いいよ。ほっておく」

「そうですね。出ない方がいいですよ。これだけ無視してるのにかけてくるなんて、かなり粘着質で自分勝手で空気の読めない人ですね。きっともてない男に決まっています」

思わず、くすくすと笑ってしまった。
電話の相手が誰だか知らないけど、散々な言われようだ。

「もてない男って断言しちゃうんだ」

偏見だと言って凪くんも笑う。

「そうよ、これまで華麗にふってやった男でこういうのが何人かいるわ」

やや得意げな顔で亜樹ちゃんは言うと、ふふんと笑った。
それは自慢することなのだろうか……。

「さ、きりのいいところまでやって、帰ろうか」

再び、みんなでパソコンの画面に向かう。

凪くんの長い指がカチャカチャとキーボードを叩くのを見ていたら、ふとひとつの考えが頭に浮かんだ。

あの電話の相手はもしかして。

中野部長ではないだろうか。
陽子さんの元不倫相手の。


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