ハロウ、ハロウ
懐かしい風景だった。
小学校の校門をくぐり、闇に沈みかけた校舎に向かう。

走ってきたからか、呼吸が辛い。


不思議なことに、全く人気が無い。
警備の人も、教師も。居ないようだ。
職員室の明かりはついていない。


大きな洋館のような造りの校舎の玄関の柱に手をついて息を整えながら、百合子の姿が無いかと周囲を見渡す。


「お姉ちゃん?」

「百合子……!」


探していた姿はすぐに見付かった。
黒いランドセルを背負って、キョトンとした表情で立っている。


「どうしたの?」

「あんたねぇ……、こんな遅くまで何をしていたの」

「遊んでたの!」

「はあ?」


呆れた。
遊んでただけかよ。
それでこんな遅くまで?
心配するじゃないか。



ん?





「遊んでたって、一人?」

「ううん、もう一人居るよ。今忘れ物取りに行ってるの」

「そうか。じゃあその子も一緒に帰ろうか」


流石に一人で帰すわけにはいかない。最近物騒だから。


「うんっ」


ニコニコ顔で走り寄って来た百合子の頭を撫でつつ、玄関から中を見た。

等感覚で並ぶ靴箱。
白い床。
ステンドグラス。

懐かしい風景だった。


「お姉ちゃんここに来るの久しぶりでしょ?」

「うん。ちょうど10年くらいかな」

「ワタシの歳と同じー」

「そうだな」


ふと、私は百合子の手元を見た。








「百合子、今日、雨降ったっけ?」


「ううん、降ってないよ」


「じゃあ、傘、持って行ってないよね?」


「うん、持って行ってないよ」


「じゃあ、その傘は置き傘?」


「うん、置き傘だよ」











「じゃあ、誰の置き傘?」

「…………」


















「かなり古いよね?」








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