秘密を、君に・・・




ゴールデンウィークが明けてしばらくすると、妙な噂が社内に流れだした。


新入社員の中に白華堂のスパイがいる――――――――――


その噂を聞いた私は、すぐに自分のことだと思った。

あの日カフェで会った先輩は言いふらすような真似はしないと思うけど、きっと、他にも私と森宮さんが二人でいるのを見かけた人がいたのだろう。

その新入社員が私だということが知られるまでには、そんなに時間がかからなかった。


だけど、基本は優しい人が多い社内では、面と向かってあれこれ言う人はいなかった。

もちろん、陰で何を言われているのかまでは把握していないけれど・・・・

でもやっぱり、どことなくぎこちない空気は漂っていて、まだ研修期間中だったこともあり、特に新入社員の間では腫れ物に触るような扱いをされていた。

一応、噂の新入社員が私だと言われはじめた頃に一度だけちゃんとスパイ疑惑を否定したのだが、それで納得できない同期もいるようだった。


あの日カフェで会った先輩は、わざわざ終業後に食事に誘ってくれたうえで、おかしな噂の原因は自分ではないが、それを抑えられずに申し訳なかったと詫びてくれた。

どうやら先輩は、噂の出もとに心当たりがあるようだった。

私はその出もとについては尋ねるつもりもないし、先輩が責任を感じる必要もないと返したけれど、あの日以来森宮さんとは会ってないにもかかわらず、こんな噂になって戸惑っているということは伝えた。


だいたい、あの日まで森宮さんの立場を知らなかったのだから、まったく不本意だと、腹を立てる権利だってあるはずだ。


けれど実際は、森宮さんとはじめて会った夜、いくつか違和感を持ったのにそれを無視した私は、その権利を主張するべきではないのかもしれない・・・・・








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