我喜歡你〜君が好き〜
1
朝は6時半に起きる。そこから身支度を整えて、トーストをコーヒーで流し込んで。テレビの占いコーナを少し気にしながら家を出るのが7時半過ぎ。

最寄り駅まで15分歩いて、電車に乗って乗り換えるのは2回。

会社に着くのは8時20分。始業時刻の10分前。

これが社会人になってから10年近く続いている松島凪沙(まつしまなぎさ)の朝の日常だった。

今の会社に新卒で入社してから、一度も遅刻をしたことはない。遅刻をする理由がない。

大学時代に散々遊び尽くした凪沙は社会人になってから、夜遊びどころかクラブにも出向いていなかった。

ぱっと見は綺麗系で、必要最低限の常識もあるので合コンや見合いなどの誘いも多かったが
そう言う場所は苦手だから。
彼氏とか結婚とか興味がないわけではないけど…今の生活リズムを壊したくない。

などと理由をつけて断っていたら、ぱったりと話は来なくなった。

しかし、凪沙はそれでいいと思っている。

仕事をして、お給料をもらって、自立した生活を送って、好きなことをして、友人がいて…他に何が必要だというのか?

「だから!その考え自体がおかしいって言ってんのよ!」

昼休み、会社近くのカフェでランチを済ませた凪沙は同期の苅野理依奈(かりのりいな)に鋭いツッコミを受けていた。

流行を意識したメイクとパステルカラーの服を装備したモテ女の理依奈は食後のミルクティーのストローをガジガジと噛みながら、付けまつげによって当社比二倍に拡大された瞳をするどく細めて凪沙を睨みつける。

「家と会社の往復だけで二十代を潰したのに、30代まで同じことでつぶすつもり?」
「いや、潰したわけじゃないわよ。ちゃんと充実してたもの。」

アイスコーヒーの氷をすとろーでクルクル混ぜながら渚は力なく反撃する。

「凪沙の充実は一般女性の充実とは違うのよ。仕事して休みの日にはおひとりさま満喫して、スマフォの疑似恋愛ゲームに興じる夜を過ごすのは決して充実しているとは言わないわ!」

凪沙だって一応…異性に興味がある。しかし、それは生身ではなく、綺麗な顔をしたイラストの二次元男子限定だった。

「理依奈にはわからないのよ。理依奈は可愛いし綺麗だし、モテるし。どうせ、私は…。」
「また、始まった!その、どうせって言う口癖やめなさいよ。どうせ。とか、わたしなんか。とか言ってると本当にチャンス逃すよ!?どうせ…じゃなくて、もしかしたら!!って口癖にするだけでいい男が舞い込んでくるのよ!」

自分もそうやって今の彼を手に入れた。と豪語する理依奈は、どこからどう見ても輝いていて…。

凪沙は悔しさまぎれに心の中で小さく愚痴った。

リア充・滅!

< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop