風薫る
「こんにちは、木戸さん」

「黒瀬君!」


待ち人に急いで振り向く。


すらりと縦に伸びるシルエットが逆光で綺麗に際立っている。


せかせか本を貸し借りして、こんにちは、行こう行こう、と言えば、黒瀬君が笑った。


「そうだね、行こうか」


笑いを発言に含まれて、む、とふくれる。


いいもんいいもん。笑われたって気にしないもん。

だって早く一緒に行きたかった。


今日は昨日より早く来て、鞄も置かず、席も取らずに、すぐにでも出発できる態勢で待っていたのだ。


「四つ葉あるところって一番近いのどこかな」


黒瀬君の疑問を二人で考えるも、いい場所が思いつかない。


うーん、そうなんだよね。


公園とか河原とか全然近くにないから、行くとしたら確実に遠くなる。


「西公園……?」


提案なのに自信なさげになってしまった。


西公園がここから最寄りの、シロツメクサがありそうな場所だけど、やっぱり遠い。

徒歩だということも鑑みると、黒瀬君の家が反対方向だったらかなり帰るのが遅くなってしまう。


「黒瀬君、家どこ?」

「大丈夫、近くだよ」


心配が伝わったのか、返事が早くて的確だ。


私も近くに住んでいる。じゃあ決定でいいかな。


行こう、ともう一度促して、私は鞄をしっかり持ち直した。
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