ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

ずっと体が軋(きし)むように痛かった。自分のことじゃないのに、思念は痛さも感情も共有する。

「羽柴、顔色わるいけど大丈夫?」

いま自分が電車に乗っていることを忘れるぐらい、まださっきの余韻がひどい。

「平気。ちょっと疲れただけ」

「俺の肩で休んでいいよ。着いたら起こすから」

ふわりと詩月の匂い。

周りの目とか恥ずかしさとか、そんなの気にならないぐらいまぶたが重い。自分の心が離されないように必死で頭を整理しながら目を瞑った。


ああ、なんであんな思念を読み取ってしまったんだろう。

気持ちがまだ不安定で頭がズキズキする。

男の子をかつあげして殴っていた人たちの胸には南中と書かれた校章のバッジが付いていた。

南中……?今日行った中学校は西中だったっけ?

すごく不良って感じで暴力を遊びのように楽しんでる人たちだった。どこにでもガラの悪い人はいるんだなあ……とかどうでもいいことを頭で考えようとしてるけどムリ。

どうしても、どうしたって、私の中に消えない顔がある。


――『興味ない。勝手にやれば』

そう吐き捨てて消えた男の子。

氷みたいに冷たい目。

不良たちの仲間で自分は手を出さないけれど、
一目置かれているような存在。

見間違いじゃなければ。
あの思念が正しいものならば……。


あれは詩月だった。

今とは見た目も雰囲気も真逆で、まだ信じられない気持ちのほうが強いけど……あの顔は間違いなく詩月だ。

私は詩月の横顔を静かに見つめて、また目を戻す。

記憶をなくす前の詩月はどんな生活をしていたの?

気になるけど、あの詩月を見たら手伝うのが少し怖くなった。
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