君が思い出になる前に…
下を向いたまま立ちすくんでいた。
「もう充分よ。わがまま言ってごめんね」
声を震わせながら紀子が言った。
「なにもしてあげられない…」
声にならない声を絞り出した。
「気にしないで、もう…。決めた事なんだから」
溢れ出す涙を拭いながらも笑顔で話す紀子。
「じゃあね、ありがとう」
そう言うと、紀子が砂浜を駆け出していった。
ハッとして、その背中をただ目で追うだけだった。
すると数十メートル行ったところで立ち止まり、紀子は振り返っておれを見た。「ありがとう!大好きだったよ!」
と叫んで、再び走り出した。
遠くに離れて行く紀子。そしていつしかおれの視界からいなくなってしまった。誰もいない砂浜。
潮風が濡れた頬を乾かそうとしてくれる。しかし次から次と溢れ出す涙。
おれは我を忘れて、その場に泣き崩れてしまった…。
「ウワ~~~ッ!!」声を出して泣いてしまった。


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